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鷲巣の走馬棟佇まいを継承する連なり

利根川の江戸川への分岐からやや下流の土手沿いに建つ禅寺。江戸初期に建立された寺院は明治時代に一度焼失し、その後、本堂を始め、客殿、庫裏など土手に沿って南東方向に増築を重ね、1990年代に現在の配置になった。老朽化が進む一方、時代とともに寺院のあり方、家族構成なども変わり、使い勝手を考慮した建替えの時期を改めて迎えている。 客殿、庫裏は先代、先先代の住職の思い入れある建物であり、重厚感のある瓦屋根の連なりは何ものにも代え難い景色となっているため、建替えではなく骨格を残すリノベーションで進めることにした。ただ、この連なりの中にもやや異質なものが混じっており、一部解体を含め、違うアプローチを試みようと考えた。 今回の一期工事は、本堂からみて末端の1960年代以降に増築されたエリアを、子世帯が住む庫裡別棟としてつくりかえるリノベーションである。もともと親世帯が住む庫裏とは別棟になっているが、公私が混在する動線を整理すること、四季折々の長閑な土手の風景も取り込む全方向に開放的なプランにすること、玄関から連続する土間空間を中心とした立体的な魅力を加えることなど、既存建物の佇まいをそのままに生まれ変わっている。 連なりの最南東の突端、最も直近に増築された屋根の傾斜が他の棟と異なる2階建ての建屋は、規模を縮小すべく取り壊すことも考えたが、切り離して“ハナレ”とし、テントで覆われた簡易かつ趣の違うものとした。他とは全く異なる佇まいと室内空間は、増築を繰り返した20世紀、減築により新しく生まれ変わっていく21世紀、その分岐点の象徴である。夜になるとテント越しに光が漏れ、行燈のように闇夜に浮かび上がる。

新建築住宅特集2023年5月号 住まいのリフォームコンクール入賞

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