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コラム6/コンセプトが導く「カタチ」

  「形態は機能に従う」というモダニズムの巨匠、ルイス・サリバンの言葉や、構造の合理が形態と一致することを良しとする風潮がありますが、合理的なものが必ずしも美しいデザインにならないことがあります。言い換えると、説明のできない感覚的な部分も大切であり、合理の近傍に美しさがあるのかもしれません。
  私たちは図面や模型、パースなどによって、設計中はもちろん、工事中であってもスタディを繰り返しますが、そのすべての過程において「なぜ○○○なのか?」と問われた時に筋道を立てて説明できることは、多くの人が関わってできあがる建築の世界ではとても大切なことだと思っています。明快なコンセプトに基づいて論理的な思考によるスタディをすることで、建主をはじめ設計を一緒に進めるスタッフ、協力事務所、施工者の全員と進むべき方向性を共有することができるので、円滑にプロジェクトを進めることができます。そのようにしてできあがった建物は、その成り立ちが理解しやすく、説得力のある形態となります。ただ、デザインを論理的につめると言っても、そこにはもちろん設計者の感性や主観が入り込むため、例え着眼点が同じであっても、設計者によって全く違うものになります。つまり、論理的につめることと同様、設計者の感性も大切であり、どこまで論理的につめるかは最終的には設計者のさじ加減だと思っています。
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紅葉の軽井沢

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初秋の軽井沢に行ってきました。
今年の紅葉は例年よりも少し早いとのこと。
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川口通正さんが設計した住宅を拝見させていただきました。
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建主様のご厚意で、美しい風景を眺めながら食事までさせていただき、
とても有意義な時間を過ごすことができました。どうも有難うございました。

コラム5/ネコもつく「居場所」

 ネコは居心地のいい場所をよく知っています。陽だまりで目を閉じてうとうとする姿は実に気持ちよさそうで、徐々に移りゆく陽だまりを追うように、気が付くといつもそこに丸くなっています。本来、人もネコ同様、家の中にその時々に合わせて自分の居場所があることが望ましく、それは単なるの部屋の寄せ集めではありません。冬の陽だまりや夏の涼風をはじめ、明るさや広さ、床のレベル差や天井の高さ、柱、壁といったものをどのように配置するかなど、さまざまな要素を考慮してつくられます。
 内部空間は周辺環境や敷地の特徴、プライバシーの取り方などと強い関係にあります。さらに家の中には家族団欒の時、一人になりたい時、大勢の人を呼んでパーティーをする時、本を読む時、音楽を聴く時など、いろいろな場面があります。外部との関係と家の中で繰り広げられる様々な場面を掛け合わせて如何に多様な居場所をつくるかが、居心地の良い住まいの鍵となります。
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コラム4/家は「街との間」が大事

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 大自然の中であったり、建物が道路や隣家から遠く離れた広大な敷地でない限り、家の中のプライバシー確保は多かれ少なかれ必要になってきます。日常の生活をする上でプライバシーと採光の確保はいずれもとても重要な要素ですが、隣家が迫る都市住宅においてこの相反する両者を両立させることはとても難しく、塀で囲ったり、絶えずカーテンやブラインドを閉めることでプライバシーを確保し、日中も照明を点けることが多いのではないでしょうか。しかし、そのような状況は居住空間としてあまり良い環境とは言えません。日本では住宅の建て替えスピードがとても早く、将来を見越して周辺環境を読み込むことは非常に困難ですが、道路は50年先も恐らく道路であるといったように、ある程度は予測可能です。都市部の住宅において、明るく開放的、かつ、外からの視線を気にしないで過ごせる居住空間をつくるためには、敷地境界をよく観察し、平面および断面の構成に工夫を加えることが必要です。
 そして、プライバシーの確保と切っても切れないものが開口部(窓)で、その取り方により内部空間は全く異なったものになります。例えば、外の風景を印象的に切り取るピクチャーウィンドウ、壁の上部から光を取り込むハイサイドライト、床をなめるように照らす地窓など、様々です。一方で大きなガラス窓が好まれる場合もありますが、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃 」にもあるように、古来、日本では陰翳が好まれてきました。落ち着く空間にはある程度の暗さが必要で、技術的に全面ガラス張りの温室のような建物をつくることが容易になった現代においては、陰翳をどのようにつくるか、つまり「影のデザイン」が重要になってきています。明るさを追い求めるばかりで忘れていた陰影の空間を、新たなかたちで取り戻す時期に来ているように思います。
 
 

コラム3/「土地」に耳を澄ませば 

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 建物を建てる前に誰もがやらなければならない大仕事が、敷地を探すことです。多くの人はこんな場所にこんな家をという理想をもって、ある程度条件を設定して候補地を絞っていくと思いますが、なかなかイメージどおりに行かないのが現実です。理想に忠実な敷地はほぼないと思った方が良いでしょう。そして、そのイメージどおりの敷地に巡り合えなかった分を、設計の力で理想の住まいに近づけていくのが建築家の腕の見せどころです。
 敷地は実に様々なものがあります。例えば、傾斜地に建物を建てるということは、平坦な敷地に建てるということと全く異なる建ち方になります。また、敷地の形状も整形な場合、不整形な場合、細長い場合など様々で、それぞれの形状だからこその建ち方があります。更には道路付きが南か北か、あるいは角地か否か、そして目には見えないその土地の法規制にはどのようなものがあるかなど、例え敷地形状が同じであっても、そのバリエーションは無数にあります。
 設計をスタートさせる際は、まず敷地の中に立ち、まわりをよく観察します。次に道路側、可能な場合は隣地に立って外側から敷地を観察します。そして敷地のもつプラス要素とマイナス要素を整理します。敷地が狭い場合は、特に敷地境界を意識し、建物と敷地境界線の間のデザイン、すなわち、外部空間の設計を慎重に行います。敷地内における建物の内部と外部は、単に屋根があるかないかの違いでしかなく、どちらも並行して設計すべきものです。建物の内部を設計して、それ以外は敷地の余白部分という計画は、敷地を最大限生かしたものにはなりません。設計の初期段階は、敷地境界線を常に意識してスタディし、その土地の持つポテンシャルを最大限活かすことがとても大切です。

「井の頭公園の家」祝!上棟

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方形屋根の「井の頭公園の家」が上棟しました。
建て方の時の位置決めに使った仮柱は取り外され、
建物の中心に鎮座する大黒柱が無事に自立。
建て方の様子はコチラ
現代的な空間構成の古建築を思わせる佇まいです。
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建て主様のご厚意で、上棟式を行っていただきました。
大工さんをはじめ多くの方々と楽しい時間を過ごすことができました。
皆様、どうも有難うございました!

コラム2/敷地の「ソト」に価値がある 

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 「家に帰ってほっとしたい」、「週末は家でゆっくり過ごしたい」という言葉が表すように、「家」という言葉にはプライベートな印象があります。そのためか、どうしても視点や発想が内向きで、家の設計を依頼する建主の多くは要望が家の中に集中しがちで、街に対する建ち方にはあまり関心がないように思います。要望をそのままかたちにしてしまうような設計者がいるとしますと、その設計者にも責任がありますが、その結果として、今の日本の街並みが出来上がっているように思います。個人の所有物である家は自由に建てることができますが、街をかたちづくる一部であることも忘れずに、その佇まいを大切に考えるべきだと思います。
 私たちが建主から設計を依頼された時は、まず、敷地境界の外側をよく観察するようにしています。敷地の周辺にどのような建物がどんな大きさでどのぐらいの密度で建っているのか、隣接して緑はあるのか、遠くに山は見えるか、並木が見えるか、畑が広がっているかなど、敷地の形や大きさ以上に周辺環境は建物を計画する際に大きな影響を与えます。また、敷地が都心の密集地か、郊外の住宅地か、あるいは別荘地かによっても建ち方は違ってきます。その結果、周辺環境に馴染ませるもよし、反対に主張するのもよいでしょう。何れにしても、その敷地だからこその魅力的な佇まいをつくるべきです。周辺環境のプラス要素は最大限活かすべきですし、マイナス要素があるならば、よく観察して解決していくべきです。建主の個別の要望ではなく、敷地の特性を把握して、その場所から導き出されるそこにあるべくしてある建築は例え住み手や用途が変わっても、そこにあり続けるものとなるでしょう。