• Archive

コラム7/「素材」の持つ力を活かす

 素材は手ざわりや見かけといった点で住み手にとっていちばん身近なもので、好みの雰囲気をつくる上で欠かせないものです。同じ形をした空間であっても、どこにどのような素材を使うかによって全く異なったものになります。一方で、空間の大きさや明るさ、用途や性能といった要因でも素材の選択は変わってきます。素材選びは住み手が好みを直接表現できるところでありながらも、空間の質を大きく左右するものでもあるため、双方をすり合わせていくのに苦心することも少なくありません。「カタチ」がコンセプトに基づいて論理的に導かれるように、素材においては好みによるパッチワークに留まらない、素材の持つ力を活かした質の高い空間を引き出していきたいものです。木、コンクリート、鉄といった構造材も仕上の一部として効果的な役割を果たします。木は木らしく、木でしかできない表現を、コンクリートはコンクリートならではの、鉄は鉄らしくその特性を活かしたものをつくりたいものです。
 このように素材は実際の建築において大きな影響を与えるのですが、大学の設計教育の現場においては最終的な成果物として図面、模型、パースといったもので仮想の建築を表現するので、素材を考えて設計することは少ないと思います。実際には建たないものしか設計する機会のない学生の時は、むしろ、素材に縛られない自由な発想で建築を考えるトレーニングが大切と思う一方、素材が建築デザインに大きな影響を与えることも知っておいて欲しいと思います。
6章.jpg

「つつじヶ丘の家」お宅訪問

今年の夏に竣工した「つつじヶ丘の家」のご紹介。
s-014.jpg
家の中に幾つもの家型が連なります。
s-011.jpg
キッチンからリビングを見たところ。
s-017.jpg
こちらがリビング。夜になると昼とは違った趣に。
s-005-i2.jpg
玄関から入るとバスルームまで見通せるプランは、
建て主のリゾートホテルのビラのようなイメージを具現化したもの。
小さな家には固定観念にはとらわれない発想の転換が必要です。
s-008.jpg
バスルームからベッドルームが見えます(勿論、閉じることもですます)。
視線の行き止まりをつくらないように「抜け」を随所につくっています。
s-009.jpg
ベッドルームはまさにリゾートホテル!
s-001.jpg
小さな敷地に駐車場を確保することでL型の建物配置となり、
家に入りやすくするためにさらに建物の幅を縮めるといった感じで、
使い勝手を考えながら意図的にガタガタの平面としています。
そのガタガタなプランだからこそ、
その平面形状にあわせた小さな屋根が連続します。
s-019.jpg
外観から天井、そして家具、レンジフードの小さなスケールまで、
家型のデザインがシームレスに連続しています。

コラム6/コンセプトが導く「カタチ」

  「形態は機能に従う」というモダニズムの巨匠、ルイス・サリバンの言葉や、構造の合理が形態と一致することを良しとする風潮がありますが、合理的なものが必ずしも美しいデザインにならないことがあります。言い換えると、説明のできない感覚的な部分も大切であり、合理の近傍に美しさがあるのかもしれません。
  私たちは図面や模型、パースなどによって、設計中はもちろん、工事中であってもスタディを繰り返しますが、そのすべての過程において「なぜ○○○なのか?」と問われた時に筋道を立てて説明できることは、多くの人が関わってできあがる建築の世界ではとても大切なことだと思っています。明快なコンセプトに基づいて論理的な思考によるスタディをすることで、建主をはじめ設計を一緒に進めるスタッフ、協力事務所、施工者の全員と進むべき方向性を共有することができるので、円滑にプロジェクトを進めることができます。そのようにしてできあがった建物は、その成り立ちが理解しやすく、説得力のある形態となります。ただ、デザインを論理的につめると言っても、そこにはもちろん設計者の感性や主観が入り込むため、例え着眼点が同じであっても、設計者によって全く違うものになります。つまり、論理的につめることと同様、設計者の感性も大切であり、どこまで論理的につめるかは最終的には設計者のさじ加減だと思っています。
5章.jpg

紅葉の軽井沢

s-DSC00121a.jpg
初秋の軽井沢に行ってきました。
今年の紅葉は例年よりも少し早いとのこと。
s-DSC00133.jpg
川口通正さんが設計した住宅を拝見させていただきました。
DSC00210 -s.jpg
建主様のご厚意で、美しい風景を眺めながら食事までさせていただき、
とても有意義な時間を過ごすことができました。どうも有難うございました。

コラム5/ネコもつく「居場所」

 ネコは居心地のいい場所をよく知っています。陽だまりで目を閉じてうとうとする姿は実に気持ちよさそうで、徐々に移りゆく陽だまりを追うように、気が付くといつもそこに丸くなっています。本来、人もネコ同様、家の中にその時々に合わせて自分の居場所があることが望ましく、それは単なるの部屋の寄せ集めではありません。冬の陽だまりや夏の涼風をはじめ、明るさや広さ、床のレベル差や天井の高さ、柱、壁といったものをどのように配置するかなど、さまざまな要素を考慮してつくられます。
 内部空間は周辺環境や敷地の特徴、プライバシーの取り方などと強い関係にあります。さらに家の中には家族団欒の時、一人になりたい時、大勢の人を呼んでパーティーをする時、本を読む時、音楽を聴く時など、いろいろな場面があります。外部との関係と家の中で繰り広げられる様々な場面を掛け合わせて如何に多様な居場所をつくるかが、居心地の良い住まいの鍵となります。
4章.jpg

コラム4/家は「街との間」が大事

pojagi.jpg
 大自然の中であったり、建物が道路や隣家から遠く離れた広大な敷地でない限り、家の中のプライバシー確保は多かれ少なかれ必要になってきます。日常の生活をする上でプライバシーと採光の確保はいずれもとても重要な要素ですが、隣家が迫る都市住宅においてこの相反する両者を両立させることはとても難しく、塀で囲ったり、絶えずカーテンやブラインドを閉めることでプライバシーを確保し、日中も照明を点けることが多いのではないでしょうか。しかし、そのような状況は居住空間としてあまり良い環境とは言えません。日本では住宅の建て替えスピードがとても早く、将来を見越して周辺環境を読み込むことは非常に困難ですが、道路は50年先も恐らく道路であるといったように、ある程度は予測可能です。都市部の住宅において、明るく開放的、かつ、外からの視線を気にしないで過ごせる居住空間をつくるためには、敷地境界をよく観察し、平面および断面の構成に工夫を加えることが必要です。
 そして、プライバシーの確保と切っても切れないものが開口部(窓)で、その取り方により内部空間は全く異なったものになります。例えば、外の風景を印象的に切り取るピクチャーウィンドウ、壁の上部から光を取り込むハイサイドライト、床をなめるように照らす地窓など、様々です。一方で大きなガラス窓が好まれる場合もありますが、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃 」にもあるように、古来、日本では陰翳が好まれてきました。落ち着く空間にはある程度の暗さが必要で、技術的に全面ガラス張りの温室のような建物をつくることが容易になった現代においては、陰翳をどのようにつくるか、つまり「影のデザイン」が重要になってきています。明るさを追い求めるばかりで忘れていた陰影の空間を、新たなかたちで取り戻す時期に来ているように思います。
 
 

コラム3/「土地」に耳を澄ませば 

shirokane.jpg
 建物を建てる前に誰もがやらなければならない大仕事が、敷地を探すことです。多くの人はこんな場所にこんな家をという理想をもって、ある程度条件を設定して候補地を絞っていくと思いますが、なかなかイメージどおりに行かないのが現実です。理想に忠実な敷地はほぼないと思った方が良いでしょう。そして、そのイメージどおりの敷地に巡り合えなかった分を、設計の力で理想の住まいに近づけていくのが建築家の腕の見せどころです。
 敷地は実に様々なものがあります。例えば、傾斜地に建物を建てるということは、平坦な敷地に建てるということと全く異なる建ち方になります。また、敷地の形状も整形な場合、不整形な場合、細長い場合など様々で、それぞれの形状だからこその建ち方があります。更には道路付きが南か北か、あるいは角地か否か、そして目には見えないその土地の法規制にはどのようなものがあるかなど、例え敷地形状が同じであっても、そのバリエーションは無数にあります。
 設計をスタートさせる際は、まず敷地の中に立ち、まわりをよく観察します。次に道路側、可能な場合は隣地に立って外側から敷地を観察します。そして敷地のもつプラス要素とマイナス要素を整理します。敷地が狭い場合は、特に敷地境界を意識し、建物と敷地境界線の間のデザイン、すなわち、外部空間の設計を慎重に行います。敷地内における建物の内部と外部は、単に屋根があるかないかの違いでしかなく、どちらも並行して設計すべきものです。建物の内部を設計して、それ以外は敷地の余白部分という計画は、敷地を最大限生かしたものにはなりません。設計の初期段階は、敷地境界線を常に意識してスタディし、その土地の持つポテンシャルを最大限活かすことがとても大切です。