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コラム11/上質な住まいに隠された「細部」

 近代建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエの言葉に「God is in the details/神は細部に宿る」というものがあります。美しさと機能の追求はディテールの追求であるという解釈になりますが、細部までこだわり抜いた空間に実際に身をおくと、濃密で引き締まった空気を感じます。
 ミースが言いたかった正確なところはさておき、建築家はコンセプトにもとづく意匠だけでなく、住み手の様々な住まい方を想像して、「安全性」「快適さ」「使いやすさ」などにも気を配りつつ、如何に美しく設えるかを考え詳細をつめていきます。落下防止という目的ひとつとっても、機能を満たしながらも機能を感じさせない、さりげない手すりをデザインするなどはよい例です。何気なく感じる空間であっても、そこには実にたくさんの凝縮された工夫があるのです。細部まで緻密に考えながらも、それを感じさせないデザイン。そこではじめて上質な空間が得られるのです。
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コラム10/「暮らし」に息づく趣向

 設計者はどこまで住み手の暮らし方を想定して、細かいところまでつくり込むべきなのでしょうか?「住宅は“建主”のモノなので、あまりつくり込まずにシンプルな箱をつくり、引渡し後に“建主”が家を完成させていくべきです。」という声が時々聞こえてきますが、本当にそれでよいのでしょうか?建築家として住宅を設計するのであれば、それでは少し役不足なような気もします。確かに住み手の住み方によって空間はより素晴らしいものになりますし、建築家の自己満足でしかないプランより、シンプルな箱の方が空間に可能性がある場合もありますが、敷地から家具までシームレスにデザインするからこそできる空間もあります。建築家は住み手の5年後、10年後、あるいは住み手が変わった50年後をイメージしながら、どこまでつくり込むかの加減を見極めなければなりません。もちろん、イメージしたとおりに住み手は使わないかもしれませんが、様々なシーンを想定すること自体が大切で、その予想を遥かに超えて住み手が住みこなしていく可能性を持たせるべきだと思っています。
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「志木の家」お宅訪問

今年の夏に竣工した「志木の家」に行ってきました。
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漆黒の闇に包まれた個性的な住宅です。
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建て主の強い要望もあって仕上げはほとんどが黒で、
和紙、左官、タイル、木といった素材と光沢の違いで様々な表情をつくり出します。
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床のように大きなテーブルを家の中心に設え、食事はもちろん、テレビを見たり、
夫婦それぞれのデスクトップコンピュータを置いてネットサーフィンしたり、
そこでほぼ全てのことが行われます。
ソファの背後には横になりながらテレビを見るベッドスペース、
その両側にそれぞれの書斎があります。
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レースのカーテンで曖昧に仕切られたワンルーム空間となっています。
付かず離れず、夫婦二人のための適度な距離感のある住宅は、
漆黒の闇でありながら、周りの緑をすくい取って光が差し込み、
静かな二人だけの特別な空間です。
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とても個性的な住宅ですが、のどかな風景の中にひっそりと建っています。
この住宅ほど黒く、光を抑えたものを設計したことがありませんが、
数ヶ月住んだ建主様の感想は、
明るさはイメージ通りでとても落ち着くとのことで、
素材と光沢によるわずかな光の映ろいを楽めるとご満足のご様子。
設計者としてもとてもうれしいです。

土地を切って賃貸に①

持っている土地の使い方・今ある家の建て直し方として、土地を分割して賃貸として運用しながら、コスト面の安心感を作るという方法があります。

このコラムでは、その事例を3つほど紹介します。今回は①。

賃貸棟。敷地の高低差を利用し、地下1階地上2階建木造ガレージ付きの高級賃貸。高級賃貸を専門にする不動産会社様と一緒に、高賃料でも入居者の表れる仕様を詰めて計画しています。

▲賃貸内部。CLICKで大きな画像をご覧になれます。

建て替え後のオーナー住居と賃貸。門まわりは古くなった木扉や狭く段差のが大きく使い勝手の悪かった人用門扉部分の補修とリデザインを経て、再利用しています。植え込みなどもそのままに、交差点の風情を保全しています。お庭には茶室もあり、使い勝手と母屋との関係を考慮して配置を変えています。

美しく古い木々の植わった庭も、計画に合わせて造園家の先生に協力を仰ぎ既存樹木の保全を重視しながら計画していただいています。茶室は補修と元の姿を復元する工事に加え、空調を組み込むことで快適性も改善しています。こちらのお庭と茶室の詳細は、コチラ からご覧になれます。

<賃貸(別棟)を自宅の土地に建築して自宅を建て替える流れ>

実際の計画にあたっては、下図のような工程を踏むことで、仮住まいを借りる無駄なコストと労力を削減する形で進めました。

八ヶ岳の山荘 筬欄間を間仕切りに。

八ヶ岳の山荘 の2階のベッドルームでは、既存の家屋に付いていた「筬欄間(おさらんま)」をベッドルームと通路の間仕切りとして利用しています。欄間は和室の襖・障子等の間仕切りの上に付けられるもので、筬欄間は特に細い桟が並んだ形状のものをいいます。元々は横に付いていた欄間を縦にすると、純和風の欄間も、雰囲気がガラリと変わります。

色の薄い木部は今回新しく作ったもの。柱と柱の間に木目の美しい小梁を通して、その間にコマを噛ませて浮かせて設置しています。

透けのある間仕切りが風通しのよい空間つくり、爽やかな印象を感じられます。

コラム9/使い勝手を編み込む「間取り」 

 多くの建主にとって、「家」は街並やコンセプトといったものよりも「使いやすさ」が最も重要で、満足度に大きく影響します。そのため、設計する際にはこの「使いやすさ」について建主の要望に耳を傾けるのは至極当然のこととなります。一方で、建主の要望どおりの「使いやすさ」を織り込んだだけの住宅は、新鮮味のないものになりがちです。「使いやすさ」というものがこれまでの生活で慣れ親しんだものと同じであることが多く、例えばマンション住まいをしていた人が、「使いやすさ」だけを求めて自分の要望どおりにつくると、自ずとマンションの一室のようなものになってしまうというのはよくある例です。
 建築家は建主の言ったとおりにつくってくれないという話を聞きます。確かに建築作品をつくろうとだけ考えている人も少なからずいますが、建主に言われたとおりにつくる人もいて、むしろ、最近は建築家と名乗るそのような人の方が多いように思います。しかし、本来、建築家はその何れにも偏るものではなく、建主が要望していることはもちろん、要望していないことも含め、ありとあらゆる視点で実直に考え、より良いものを追求してこそ価値があるのではないでしょうか?そして、せっかく新しい暮らしをはじめるのであれば、これまでの生活の仕方や固定観念にとらわれずに、柔軟に「使いやすさ」を含めて空間を考えてみることが建主にも求められているのかもしれません。
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「東小金井の家」内装工事

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「東小金井の家」の現場に行ってきました。
内装は断熱工事を終え、プラスターボードを貼るフェーズに。
仕上がりの雰囲気がほぼ把握できるようになってきました。
竣工が楽しみです。